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チャイコフスキー国際コンクール、ロシア制裁で揺らぐ権威

第17回チャイコフスキー国際コンクールが今日開幕します。ロシアで4年に1度開かれる著名な音楽コンクールで、クラシック演奏家にとって世界デビューの登竜門となってきました。ピアノ、バイオリン、チェロ、声楽、木管金管の6部門で、16歳から(声楽は19歳から)32歳までに参加資格があり、公式サイトによると会期は7月1日まで。今年2月に参加者の応募受け付け開始を発表しましたが、欧米や中国以外のアジアの有力な若手も参加に二の足を踏んでいるようです。

ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、国際音楽コンクール世界連盟から除名されるなど「権威」の行方は不透明になっているからです。政治と芸術は本来分けるべきですが、チャイコフスキー国際コンクールはそもそも冷戦期に旧ソ連の国力を示す目的で誕生したといわれます。1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられ、翌58年に第1回コンクールが開催されました。国威発揚イベントと言われてもしょうがありません。政治色の強いコンクールにわざわざ出なくても…と、周りから言われるまでもなく決断する演者さんも多そうです。

1958年の第1回大会の、ピアノ部門の優勝者は、アメリカ人のヴァン・クライバーンでした。ヴァン・クライバーンの偉業を記念してつくられたピアノコンクール「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」が1962年から始まり、2009年の第13回大会で、あの辻井伸行さんが同点ながら1位に輝いたことは大きな話題となりました。

チャイコフスキー国際コンクールの時の逸話が紹介されています。東西冷戦期での大会に、アメリカ人のクライバーンを優勝者にしてもいいか、審査員が当時の最高権力者フルシチョフに恐る恐る聞いたところ、「彼が一番なら」と納得したとのことです。フルシチョフが笑顔でクライバーンを祝福する写真も残っています。冷戦期の中でも「雪解け」と呼ばれる自由なムードのあった時代でした。

今年の大会が「雪解け」のきっかけになるのは難しそうですが、緊張や圧力だけでない何かきっかけが欲しいところです。

 

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