時事マラソン

世の中の動きに対するアンテナを高く保つ

トラス英首相が辞任 経済混乱で引責、就任44日

英国のトラス首相が就任からわずか44日で辞任を表明、経済・財政の状況を甘く見積もり、金融市場を軽視して失政を重ねたうえでの退場劇となりました。トラス氏は、自身の目玉政策だった大型減税策がほぼ全面撤回に。冬の本格化を前に国民がエネルギー価格高騰やインフレに苦しむ中、課題に対処できないままリーダーが短期間で退場するという政治の無力ぶりが浮き彫りになりました。


トラス氏の減税策の柱の一つは、「法人税率引き上げ凍結」など企業や富裕層を意識した内容でした。富裕層が受ける恩恵はやがて中間層や低所得者層にも行き渡るという考えでしたが、同盟国でもある米国のバイデン大統領に「富裕層への減税は、私は反対だった」と言われ、9/27には国際通貨基金IMF)が「格差を広げる可能性が高い」と再考を促す声明も出していました。トラス氏は財源について明確に説明せず、いずれ経済成長によって借金を返済できるという不安しか感じられない考えを示すのみで、結果的に市場の不信感を招き、英国債やポンドが下落。与党・保守党は今回、こうした国際的な懸念の広がりを予測できませんでした。


しかし不思議なのは、トラス氏は首相になってから急に減税策を持ち出したのではなく、ジョンソン前首相の後任を決める7~9月の保守党党首選の段階で、自身が首相になれば大型減税を推進する方針を公約に掲げていたにも関わらず、2か月も経たないうちに辞任に追い込まれたことです。決選投票でトラス氏と争ったスナク元財務相財政再建を重視する立場から、有権者に受けのいいトラス氏の減税公約を「おとぎ話だ」と批判しており、党所属議員や一般党員にとっては「選択肢」があったにもかかわらず、トラス氏に投票し首相になりました。変わり身が早いにもほどがあると思います。


トラスさんの退場は、誕生日が同じものとしてとても残念です。次なるリーダーは、決選投票でトラス氏と争ったスナク元財務相か、はたまたジョンソン氏の再登板か、よく分かりませんが、EUも離脱し、物価高に苦しむ英国に政治の空白を許す余裕は全くありません。

 

www.nikkei.com