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エリザベス女王、チャーチルの教え守り政権の「相談役」

8日に亡くなった英国のエリザベス女王。約70年の在任期間中に15人の首相を任命しました。最後の15人目となったのが、亡くなる2日前に任命されたトラス新首相でした。エリザベス女王が過去の14人の首相にはできて、トラス氏にはできなかったことが「女王への情報報告」です。


英国の歴代の首相は毎週バッキンガム宮殿に出向いて女王に謁見し、女王に国内外の政治情勢を報告してきました。会話の中身は外には明かされません。1952年に即位した女王に最初に情勢を報告したのは、名宰相と呼ばれる故チャーチル首相です。英政府の資料によると80歳近かったチャーチル氏は最初の謁見で、20代の女王に「私は生涯の経験から女王に助言ができる」と語りかけたそうです。さらに彼女も重ねた年齢や経験を生かし首相に助言する時が来ると説きました。チャーチル氏は情勢報告で家庭教師のように法律や議会の慣習などを説明し、謁見は2時間に及ぶこともあったそうです。年齢はおじいちゃんと孫ですが、立場は女王と仕える首相。なかなか興味深い図式です。


女王は政治的中立が原則だが、内政・外交と無縁ではありません。チャーチル氏の言葉通り、その後は政権の陰の相談役を担いました。1990年まで11年の長期政権を築いた故サッチャー首相は後に「女王との面会を形式的とか儀礼だと想像するのは間違いだ」と述懐しました。国の方向性に少なからず関わっていたということでしょう。


1956年のスエズ動乱の時の経験が、1982年のフォークランド紛争時のサッチャー氏への助言に生き、イラク戦争を巡り批判を受けていたブッシュ米大統領には緩やかに擁護、今年3月のカナダ・トルドー首相の面会の際にはウクライナの国旗の色である黄色と青の花が飾られていました。


ジョンソン前首相が面会の感想で「女王はケネディ米大統領やインドのネルー初代首相まであらゆる人物を知ってる、歴史と政治に関する驚くべき権威だ」と言っていますが、もちろんリップサービスはあるものの、その言葉の説得力は半端ないと思います。


日本の皇室の模範のひとつとも言われている英王室ですが、日本もちょっとはこうなったらいいのになと思います。天皇陛下も皇后の雅子さまも見るからに賢そうで、勉強もされていそうで、私たち国民からの信頼も厚い。この何とも難しい「さりげない助言」ができる方たちだと思います。まあでも、日本では無理でしょうね…。

 

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